大判例

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最高裁判所大法廷 昭和29年(オ)236号 判決

上告人 株式会社 寿屋

被上告人 東税務署長 外一名

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人青木一男、池田義秋の上告理由

第一点について。

法人税法(昭和二二年法律二八号。昭和二五年三月三一日法律七二号による改正前のもの。以下単に法という)四三条の追徴税は申告納税の実を挙げるために本来の租税に附加して租税の形式により賦課せられるものであつて、これを課することが申告納税を怠つたものに対し制裁的意義を有することは否定し得ないところであるが詐欺その他不正の行為により法人税を免れた場合に、その違反行為者および法人に科せられる同法四八条一項および五一条の罰金とは、その性質を異にするものと解すべきである。すなわち、法四八条一項の逋脱犯に対する刑罰が「詐欺その他不正の行為により云々」の文字からも窺われるように脱税者の不正行為の反社会性ないし反道義性に着目しこれに対する制裁として科せられるものであるに反し、法四三条の追徴税は、単に過少申告・不申告による納税義務違反の事実があれば、同条所定の已むを得ない事由のない限り、その違反の法人に対し課せられるものであり、これによつて、過少申告・不申告による納税義務違反の発生を防止し、似つて納税の実を挙げんとする趣旨に出でた行政上の措置であると解すべきである。法が追徴税を行政機関の行政手続により租税の形式により課すべきものとしたことは追徴税を課せらるべき納税義務違反者の行為を犯罪とし、これに対する刑罰として、これを課する趣旨でないこと明らかである。追徴税のかような性質にかんがみれば、憲法三九条の規定は刑罰たる罰金と追徴税とを併科することを禁止する趣旨を含むものでないと解するのが相当であるから所論違憲の主張は採用し得ない。

第二点ないし第一二点について。

法人税の未納が逋脱犯を構成する場合においても逋脱犯が成立すること自体が課税の原因となるわけではなく、逋税犯が成立する場合には、同時に課税の原因となるべき事実が存在し、そのことが一般の規定による課税権発動の原因となるに過ぎないのであるから、法四八条所定の詐欺その他不正の行為により法人税を逋脱した場合は、その基本の性格において、法二九条以下の過少申告・不申告の一の場合にほかならないものと解すべきであり、従つて法四八条三項の規定によつてなされる課税標準の更正又は決定も当然法二九条以下の課税漂準の更正又は決定の手続によつてなさるべきものであり、この場合に法四三条の追徴税の徴収を排除すべき理由はない。しかも法が申告納税の実を挙げるため法四八条の刑罰を以つて臨むだけでは十分でないとして、別に追徴税の制度を設けた趣旨にかんがみれば、法人税の未納が逋脱犯を構成するかどうかにかかわらず、徴税庁は、その独自の認定により未納税額を認定し、これを基礎として追徴税を課し得るものとする趣旨であることは明らかであつて、逋脱犯として処罰されたからといつて、追徴税を免れしめる理由はない。そして、この場合の更正又は決定が、一般の過少申告・不申告の一の場合である以上、徴税庁が課税標準を更正又は決定するについては、必ずしも刑事裁判の確定した逋脱税額に拘束せられるものでなく、また、徴税庁のした更正又は決定の処分に対しては、法三六条以下の規定により審査、訴願および訴訟をなすことができ、その結果民事裁判と刑事裁判が課税標準額について一致しない場合を生ずることがあつても、両者はその目的と手続を異にする以上、また已むを得ないものといわねばならぬ。

すなわち、法四八条三項の法意は、同条一項の逋脱犯があつた、場合において、その通脱税額が未徴収であるときは徴税庁は直ちに、その課税標準を更正又は決定して、その税金を徴収すべきことを規定したに止り、この場合徴税庁は刑事裁判の確定した逋脱税額に拘束され、その額のみを徴収すべく、法四三条の追徴税の徴収を許さない趣旨と解すべきものではない。所論は右判示と異り、法四八条三項に定める課税標準の更正又は決定は、法二九条以下の更正又は決定の手続とは別個な特殊な徴税手続であつて、刑事裁判によつて確定された通脱税額に拘束され、その税額のみを直ちに徴収すべきものであり、その場合法四三条の追徴税の徴収は許されないのであるとの見解に立脚して、原判決の示した法律判断を纏々論難するに帰し採用することを得ない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八五条に従い、裁判官下飯坂潤夫の補足意見があるほか裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

裁判官下飯坂潤夫の補足意見は次のとおりである。

論旨第一点に関する判決理由を補足する意味合において卑見を左に開陳する。

わが国における納税制度は直接税に関する限り昭和二二年を境として一変した。すなわち従来の賦課制度から申告納税制度に改められたのである。申告納税制度とは一口に言えば納税義務者が自己の課税標準と税額を自主的に計算しこれを税務署に申告するとともに、その税額を自発的に納入する制度である。しかし、多数の納税義務者の中には利己的な立場から、これに協力しない者がないわけではなく、これを法人税について言えば、(イ)所定の期限内に申告書を提出しなかつたり、(ロ)期限内に申告書を提出しても税額が過少であつたり、(ハ)課税標準や欠損金額の計算の基そとなる事実を隠ぺい又は仮装して申告したりする者があるのである。そこで法律はかかる利己的納税義務者に対処して申告納税制度を確保すべく、それらの納税義務者に対しては更に重率の税金を課することとし、右(イ)の者からは無申告加算税、(ロ)の者からは過少申告加算税、(ハ)の者からは重加算税をそれぞれ徴収すべきものと定めているのである。そしてこの最後の(ハ)に属するものが現行法人税法の重加算税に該当するものであり、本件における問題の追徴税なのである。従つて追徴税と言つても、また重加算税と言つても、ひとしく法人税そのものであり、しかも独立科目の税種ではないのである。このことは旧法人税法四三条が明規している「前略……割合を乗じて算出した金額に相当する税額の法人税を追徴する」との文言によつても明らかであろう。因に、改正前の所得税法にいわゆる追徴税も、また現行所得税法にいう重加算税も、法人税に於けると同じように所得税そのものであつて、それ以外の何ものでもないのである。(これら税金の徴収は国税徴収法所定の手続によるべきであるに反し罰金、科料は刑事訴訟法により裁判の執行として納付されるものであることを記憶する必要がある。)

上叙のとおりであるからわが法律体系の下において所論追徴税は税金そのものであり、憲法三九条後段にいう刑事上の責任を、刑罰そのものと解しても、また学者のいわゆる二重の危険と解しても、そのいずれの範ちゆうにも属しないものなのである。もし所論追徴税を強いて憲法上の論議の対象とするならば、国民の納税義務に関する憲法三〇条ないしは正当手続の保障に関する憲法三一条が取上げらるべきであろう。これを要するに私は所論が憲法三九条後段を論拠とする限り到底首肯し難いものとするのである。

(裁判官 田中耕太郎 小谷勝重 島保 斎藤悠輔 藤田八郎 河村又介 入江俊郎 垂水克己 河村大助 下飯坂潤夫 奥野健一)

上告理由

第一点 原判決は憲法第三九条の一事不再理の原則に違反している。

一、旧法人税法第四八条第三項の場合に於て、逋脱犯につき有罪判決確定せるに拘らず更に追徴税を課することは憲法第三九条の一事不再理の原則に反し許されないとの上告人の主張に対し

原判決は判決理由第一の十に於いて

法第三四条の規定によつて課する追徴税は、国家の徴税行政の秩序を維持するため、納税義務違反の法人に対し、租税の形式で課せられる行政上の秩序罰即ち過料的制裁であつて、詐欺其他不正の行為により、法人税を免れ以て国家の徴税権を侵害する反社会的犯罪行為に対する法第四八条第一項所定の刑罰である罰金とは其性質を異にするものと解すべきである。

と判示している。

旧法(昭和二十四年当時の法人税法)第四三条は新法(昭和二五年法律第七二号以後の法人税法)第四三条第一項第二項及第四三条の二の所謂重加算税を課すべき場合のすべてを一括し、一率に免れた税額の二割五分に相当する追徴税を課すべき規定である、従つて旧法第四三条の場合は新法第四三条の二に該当すべき「……事実を隠ぺいし又は仮装したところに基いて」正当税金を免れた場合も之に包含される訳である、右「事家を隠ぺいし又は仮装し」といふは、表現こそ異なれ詐欺其他の不正行為と同意語であることは、苟も国語を正当に解する者の何人も寸疑を挿む余地なき所である。

だから原審判示に従うも、新法第四三条の二の所謂「事実を隠ぺいし又は仮装した行為」は「詐欺其他の不正行為により法人税を免れ、以て国家の徴税権を侵害する反社会的犯罪行為」其物であるから、同条所定の重加算税(旧法の追徴税)の制裁は法第四八条第一項の刑罰である罰金と、その性質全然同一のものである、従つて法四八条第一項の刑罰を課し、更に法第四三条の追徴税を課することは、憲法第三九条一事不再理の原則に違反することは明白である。昭和二四年三月二四日東京地方裁判所刑事第八部言渡の小久保産業事件の判決中「法人税法第四三条の追徴税の如きは、法文上は法人税となつていても、実質は罰金科料と同一のものであるから、法第四八条の処罰をなす場合に、法第四三条の追徴税の徴収出来ないことは、一事不再理の原則の趣旨にも適合し、妥当と謂うべきである」と判示されているのは、事理に徹した判示と謂うべきである、尚静岡地方裁判所佐野喜久蔵事件の判決中にも、同一、趣旨の結論が示されている。

二、原審は本項の判示に当り、隠ぺい又は仮装行為を以て、詐欺其他の不正行為と異なるが如く解しているが、原判決理由第二の(一)に於いては「事実を隠ぺい又は仮装する行為ある場合」が新法第四八条第一項の「詐欺其他不正の行為ある場合」に該当することあり得ることは、控訴人も認める通りであるから」と判示し、事実を隠ぺい又は仮装する行為を法第四八条の詐欺其他の不正行為に該当することを原審自ら肯認しているのである、原審は一事不再理の憲法違反論排斥のためには、隠ぺい又は仮装行為を、詐欺其他の不正行為と異なるものの如く解し、其第二の(一)に於いては、隠ぺい又は仮装行為は詐欺其他の不正行為に該当することを肯認して、上告人の主張を排斥しているのである、即ち原判決第一の十と第二の(一)とは理由そごの違法をも犯しているのである。

三、次に原判決は

それのみならず、もし仮に所論を是なりとするも、本件の様に追徴税を課した後、刑事の有罪判決確定したときは、後者がまさに一事不再理の原則に反し不法であり、さきになされた追徴税の賦課が違法として取消さるべき理由はない。と判示している。

然し本件追徴税の賦課決定の昭和二十四年七月三十一旧附通知書は八月十六日に上告人に送達され、右更正決定の確定を待たないで納税せねばならぬため、上告人は止むを得ず八月三十一日に納税したが、右更正決定確定前、同年九月十六日審査の請求をしたのだから、刑事判決確定当時は、本件の更正決定は確定していないのである、だから未確定の更正決定に対して其取消を求め、一事不再理論を主張することは当然である、因に刑事々件は昭和二十四年七月二十五日起訴、八月二十七日判決言渡、九月十日判決確定となつている。

四、追徴税のことで一事不再理論が許されるならば、先に追徴税徴収処分が確定する時は、刑事訴追をすることが出来ないのが、不合理だと表現したいのが原判決の底意であらうが、然し刑事訴追をする場合は、追徴税徴収処分をすること自体が違法なのだから、国家が其違法を自ら犯した結果、刑事訴追が出来ないとしても、それは誠に止むを得ない不合理であらう、それは重罪を軽罪として起訴し、判決が確定した場合、再び重罪を以て訴追し得ないのと同一である、それは追徴税の徴収に際し徴税庁は告発、起訴等の有無を調査した上慎重に処分すべきであるといふことにはなつても、之がために憲法所定の一事不再理の原則を排除してもよいということにはならない。(本件では告発、起訴のあつた後追徴税徴収処分をしている)

五、一事不再理論の展開に於いて、憲法第三九条所定の刑事上の責任が、厳密に狭義の刑事法によつて処分される行為に限定されるか、或は実質的刑罰であるならば、其根拠法の如何を問はないか、といふ点は一の問題であらう、憲法は之に対して何等の制限を附していないから、そしてそれが国民を国家刑罰権の過重行使から保護するための規定であるから、荷も実質的刑罰に関しては、同法の保護があるものと解せねばならない、これは国税犯則取締法第一四条の通告処分が実質的には刑事処分であることに徴しても明である。

前述の様に隠ぺい又は仮装行為による脱税に対する法第四三条の追徴税に法第四八条第一項の罰金と全然同一性質のものであるから、憲法第三九条の一理不再理の保護を受くべきは当然であり、之を排斥した原判決は破棄されねばならない。

六、被上告人及原審が法第四三条の追徴税を以て「国家の徴税行政の秩序を維持するため、納税義務違背の法人に対し、租税の形式で課せられる行政上の秩序罰、即ち過料的制裁である」と解するのに対し、上告人は過料は其文字の示すが如く、過失によつて行政の秩序を乱した場合、課せられる比較的軽微な財産的制裁であるが、追徴税は脱税額の二割五分(旧法)であり、最高額の制限もないから、何億何千万円という巨額に上ることもあり得るのであり、罰の本質たる害悪の実体からすると、罰金と同視すべきであり、時としては罰金よりも重い制裁である。所罰の原因たる行為は、不申告、不納税ということであり、之は法第四八条第一項の行為と同一である。ただ法第四八条第一項の場合は、詐欺又は不正の手段を伴うから、重く罰せられるだけであつて、国家の徴税権侵害という被害法益の点では両者同一である。

尚過料と刑罰とに関する上告人の見解に付いては昭和二十七年三月十八日附甲第二準備書面第三節(十四丁裏以下)及昭和二十七年十月廿三日附甲第三準備書面第五項(二一頁以下)に詳論した通りであることを念のため附記しておく。

第二点 原判決はその判決理由総論に於いて(判決書第一一丁裏第一行以下)

一、そこで法第四八条第三項に所謂課税標準の更正又は決定は、第一項の場合即ち「詐欺その他不正の行為により法人税を免れた場合」になされる、けれどもこの場合が法第二九条乃至第三一条に所謂「申告又は修正にかかる課税標準が、政府において調査したところと異なる場合」又は「無申告につき政府の調査した場合」の一に該当することは明かである。それ故法第四八条第三項によりなされる課税標準の更正又は決定は、法第二九条乃至第三一条による課税標準の更正又は決定に外ならぬものと解すべきである。

と判示されている。

凡そ課税標準の更正が行はれるのは、申告又は修正にかゝる課税標準が、政府の調査した所と異なる場合に行はれ、課税標準の決定は、政府の調査した所によると、課税さるべき法人所得がある場合であるに拘らず、無申告なる時行はれるのは、更正又は決定制度下に於いては当然のことである。然し其の更正又は決定がいかなる手続によりてなされるかは、其の過少申告又は無申告の態様いかん及び其後の手続のいかんによつて異なるべきはこれ又当然の事理であつて、必しも同一手続、同一法条によらねばならぬといふことはない、各場合に応じて最も適当なる手続方法によつてなさるべきものであるから、従つて又其の準拠法条も異なるべきは毫も異とするに足らない。

偖て本件の如く詐欺其他不正の行為によつて過少申告された場合に於いては、其の過少申告の手段方法は、詐欺其他不正の犯罪行為によるものであるが、其の手段方法が果して詐欺其他の不正行為(犯罪行為)によるものか、何うかは、刑事裁判手続によつて之を決定する以外他に方法はない、そして又斯様な犯罪行為によつて申告された過少申告額の認定も亦刑事裁判手続によつて確定する以外に方法はないのである、即ち犯則による過少申告若しくは無申告の認定、従つて又その過少申告額、若しくは無申告額の認定は一に刑事裁判の認定によらねばならぬのであつて、この場合には徴税官庁は、独自の立場に於いて犯罪の成立を認定し、その数量範囲を認定する権能を有しないことは、犯罪の認定と其の数量範囲の認定権が刑事裁判所の専権に属する法制下にあつては、異論のない所である。

さて法第四八条第三項の課税標準の更正又は決定は、斯様な犯罪行為と其の犯罪の数量範囲の確定によつてなされるものであることは、その法文自体によつて明白であるから、この場合の課税標準の更正又は決定は、一に刑事判決によつて羈束されることは言うを待たない所である、これ徴税官庁が自由裁量によつてなす法第二九条乃至第三一条の更正又は決定と、根本的に其の本質を異にする所以である。

原審がこの見易き道理を無視して「法第四八条第三項によりなされる課税標準の更正又は決定は、法第二九条乃至第三一条による課税標準の更正又は決定に外ならぬものと解すべきである」と判示したのは、関係法条の法意に対し正当なる認識を持つていなかつたため、法律適用に付重大誤謬をおかしたものと謂はなければならない。

二、次に原判決は

もし両者の性質が異なり、前者の更正又は決定(四八条第三項の場合を指す)が特殊の原因に基づく、特殊の効力あるもめとするならば、前者(判決文には後者となつているがこれは前者の誤記)の更正又は決定についても、之が告知のため法第三二条のような通知規定を設くべきであつて、之を現在のまゝに放置すれば無期限となり、極めて不均衡となること明かであるのに、かような規定のないところから見ても、法第四八条第三項の更正又は決定に、何等特殊の原因及び効力が定められたものでないことが判る。

と判示している。

然しこれは原審が法第四八条第三項の誤解に基いて下した誤判である。

旧法第四八条第三項は「直ちにその課税標準を更正又は決定しその税金を徴収する」と規定されており右直ちにが「更正又は決定し」迄に係るか、又は「その税金を徴収する」迄に係るかは多少疑問の余地があるが、何れにしてもまづ「更正又は決定し」に係り単に「徴収」するのみに係るのではないことは明である。

新法に於いては「直ちに……法人税を徴収する」と規定されている所から見ると、相法の場合にも右の「直ちに」は「更

正又は決定」と「徴収する」との両者に係る法意なることが推知し得られる。

ところで法第三二条の通知は不足税の納期と審査請求期間とを決定するために必要な手続であるが(法第三三条及第三六条参照)法第四八条第三項の場合には、直ちに徴税するのであるから、予め通知して納期を決定する必要なく、又第四八条第三項の場合には、審査請求を許さないのであるから、審査請求期間決定のための通知も不要なのである、即ち法第四八条第三項の場合の更正又は決定の場合には、法第三二条の様な通知規定がないこと自体から見ても、同条項の更正又は決定は特殊の規定によるものであることが判るのである。

(註) 法第三六条には法第四八条第三項による更正又は決定に対して、審査請求を許していない、又刑事裁判過程に於いて課税標準額について納税者(被告人)は充分に抗弁立証し得る機会があり、更めて民事手続によつて課税標準額を決定する要がない点からも、法第四八条第三項の更正又は決定に対しては、審査請求の必要がないものと解するのである。

三、次に原判決は

(イ) 同条第三項中「第一項の場合」とあるは刑事裁判により之等の者が刑罰を課せられた場合、若くは其判決確定した場合を指すものではなく、単に詐欺その他不正行為により、法人税を免れた事実ありと、徴税庁の認める場合を指すものと解すべく、

(ロ) 同条第三項の趣旨は、之等の者がかような悪質の違反行為をした場合には、その納税義務ある法人に対しては、法第三三条により通常与えられる納期限の利益を特に剥奪し、免れた税金を直ちに徴収することとし、以てこの場合の更正又は決定に対し、その範囲に於いて特別の効果を規定しただけであつて、何等この刑事有罪判決の確定を特殊の原因乃至前提として独立の課税標準の更正又は決定を規定したものではない。

と判示している。

然し前記(イ)の判示は第四八条に対する驚くべき誤解である、詐欺其他不正の行為によつて法人税を免れたか、何うかは、刑事裁判を待つて初めて確定するのである。同条項は刑事判決によつて納税者が、悪質の違反行為者たる事が確定した場合に、其悪質行為に対する報復として、納税期限の利益を剥奪しているのである。(旧法の直ちにという副詞が、単に徴収するという字句にのみ係るのでない事は前述の通りであるが)だから徴税官庁が単に嫌疑の過程にある詐欺其他の不正行為に基いて、納税者の重大権利に属する納期一ケ月の期間の利益を剥奪することは許されない所である(被告人と雖も有罪判決の確定する迄は有罪者として取扱はれない)

故に同条項に「第一項の場合に於ては」とあるのは、脱税者が犯則者として、有罪の確定判決を受けた場合を指称するものであつて、原判決の様に詐欺其他不正の行為ありと単に徴税庁が疑を掛けた場合を指すものではない。

即ち同条項による更正又は決定は、その時期に於いても法第二九条以下の場合の様に徴税庁の自由を許さないものである、(刑事判決の確定を待つ時は著しく徴税時期がおくれることがあるけれども、それは脱税額の百%の罰金(……両罰規定によつて二百%迄増徴することが出来るし、旧法に於いては脱税額の五百%……両罰規定によつて千%迄増徴される……本件に於いては上告人は千三百二十一万三千八百円の脱税に対して三千万円……二二七%の罰金を課せられた)で徴税遅延の不利益は優に償い得て余りがあることであり、又刑事裁判手続の促進によつて、刑事判決確定の時期は幾らでも早めることが出来るのである。現に本件に於いては、免れた税金及び追徴税徴収手続確定前に、刑事判決は確定しているのである。

原審判示の様に犯則の場合にも、徴税庁に於いて任意の時期に於いて、自由裁量を以て法第二九条以下によつて、更正又は決定が出来るものとすれば、本来徴税手続とは何等関係のない第十章罰則の部に於いて法第四八条第三項を特設して、殊更に法解釈の紛淆を来す様な愚をなさなかつたであろう。

そして原審判示の様に、単に納期限の利益を失わしめるだけであるならば、法第三三条に但し書を附すれば足るのである。

徴税手続と本来何等の関係のない罰則の章に於いて、犯則の場合の徴税手続を規定しているのは、其の手続が犯則の場合に特別に適用される特別の手続であつて、普通の更正又は決定手続と異なるからである。

四、原判決は続いて

これら(イ)(ロ)の趣旨は法第四八条第三項施行当時の所得税法第六九条並に昭和二五年法律第七二号による改正後の法人税法第四八条第三項中、右法第四八条第三項に所謂「課税標準を更正又は決定し」の文詞のないことからも推知される。

と判示している。

然し旧所得税法六九条第四項並に新法第四八条第三項に所謂「課税標準を更正又は決定し」との文詞がないのは、犯則の場合は刑事判決によつて確定された課税標準を其侭課税標準として採用し、刑事判決の認定した脱税額を其侭免れたる法人税として、徴収すべきが故に、徴税庁には課税標準の更正又は決定に付、実質的な更正又は決定権はないから(犯則の場合には徴税庁は只機械的に刑事判決によつて確定された課税標準を其侭、更正額又は決定額としなければならないのであつて、斯様な機械的行為は行政処分たる更正又は決定処分たる実質がない)旧所得税法及新法人税法に於いては、斯様な文詞を削除したものと解するのが妥当である、即ち旧所得税法及新法人税法によれば、殊更に四角張つた更正又は決定をすることなく、又其通知もせず、直ちに刑事判決の認定した侭の免れた税金を徴収せよとの法意なのである、直ちにとは「猶予することなく」という時期的意味もあるが、又一面徴税官庁に於いて、課税標準の更正又は決定に付き、独自の判断をすることなく、刑事判決の認定する所に従い、其侭に、という意味合も含まれていると解するのが、文理解釈として最も妥当であると確信する。

又従来採用されている立法技術から言つても、本条第一項の刑事裁判に何等関係がないのに拘らず、同条第三項に於いて「第一項の場合に於いて」と立言されることは其例がない。

第三項を刑事裁判に関係なしと解するのは、いかにして犯則の場合にも追徴税を徴収しようかと苦心した徴収官庁の傑作に外ならない。

第三点 原判決は其判決理由第一、の一に於いて(判決書十三丁の裏第二行以下)

殊に同項(四八条三項を指す)は「第一項の場合に於いて」といふもそれが何等逋脱犯に対する有罪判決又は其確定を意味せず、同項はかような事実を前提とする規定でない。

と判示しているが、右判示が税法の誤解に基くものであることは本書第二点の三に於いて論評した通りである。

第四点 旧法第四八条第三項によつて徴収すべき税金について

一、旧法第四八条第三項と新法第四八条第三項とが、同一法意であることについては、当事者間に於いて争のない所であるが、両当事者は其の解釈を異にしている。旧法同条項は……「政府は直ちに、其課税標準を更正又は決定し、その税金を徴収する」と規定しているのに対し、新法は「政府は直ちにその免れた法人税額又は還付を受けた金額……に相当する税額の法人税を徴収する」と規定している。旧法が「……税金を徴収する」と規定しているのに対し、新法は「その免れた法人税を徴収する」と規定しているのである。法人税法には、本来税金でない罰金又は其他の財産上の制裁に対しても、時として税金という名目を用いているので、旧法の康に単にその税金を徴収するというのでは、それは本来の税金だけなのか、或は税金と名のつく罰金等をも含むのか、必しも明瞭ではない。だから新法は「その免れた……法人税……」と明定して、第四八条第三項によつて徴収すべき税金を限定しているのである。同条項に謂う所の「免れた法人税」とは同条第一項によつて処罰された、詐欺其他不正の行為によつて免れた法人税であることは、文理上明白である、免れた税金とは詐欺其他不正の行為がなかつたならば、本来納税すべかりし税金で、詐欺又は不正の行為によつて徴税を免れた税金の謂であることは、之れ亦法文解釈上疑を挿むことを許さない所である。

追徴税(重加算税)は隠ぺい又は仮装行為(詐欺又は不正行為)によつて加徴される税金と名の付く罰金であるから、それは詐欺又は不正の行為によつて免れた税金と云うことは出来ない。

以上は苟も国語を素直に解する者の何人も異論を挿む余地のない所である。刑事判決は下つた、課税標準及び脱税額(免れた税金)は確定された、政府は直ちに免れた税金を徴収せよ、といふのが新法第四八条第三項の法意なのであり、又これと其趣旨を同うする旧法第四八条第三項の法意なのである。これ上告代理人等が一審以来繰返し主張した所謂羈束処分論である。然るに原判決は之に対し、判決理由第一の二に於いて、何等首肯するに足る説明をしないで、恰も自明の理の如く「右新法第四八条第三項自体に於いても、その文理上未だ控訴人主張のような趣旨を認めることが出来ないのであると」判示されたのは第二審判決の判示として衷心遺憾というの外はない。

二、以上の如く上告人の主張は、新法第四八条第三項の文理解釈上、異論を挿む余地はなく、これ以上蛇足を加える要はないが、念のため更に次の通り論述する。

起訴便宜主義の法制下に於いては、犯則者必ずしも告発され、起訴されるとは限らない、従つて隠ぺい、仮装行為によつて脱税した場合告発されず又は起訴猶予された者に対して、単に普通の追徴税(加算税)だけでは、訴追を受けた者並に犯罪行為によらない他の普通脱税者に対する普通追徴税(加算税)との均衡がとれないので、新法は第四三条の二に於いて重加算税を設けて、これ等の者に重い制裁を加えている、即ち同条に隠ぺい又は仮装行為によつて税金を免れた者とは、実質的には詐欺其他の不正行為によつて税金を免れた者に該るけれども、この場合は起訴、判決がないために詐欺、其他不正の行為という表現を用いないで、隠ぺい又は仮装行為という語を用いているのである。そして其免れた税額の五割を重加算税として徴収するのである。

新法は脱税者に、制裁として第四三条によつて徴収される五分乃至二割五分の普通加算税、第四三条の二による隠ぺい又は仮装行為者に対する五割の重加算税、並に第四八条第一項による詐欺其他不正の行為による犯則者に対し、刑罰として其免れた税金の十割迄の罰金又は三年以下の懲役、若しくは其併課、並に罰金の両罰等三階級の制裁を設けているのである、そしてそれ等は互に重複制裁されない規定と解せねばならない。

若し原判決の様に犯則の場合にも、尚罰金又は徴役刑の外に詐欺其他の不正行為即ち隠ぺい又は仮装行為者としての重加算税が課せられるものとせば、そは起訴された者と、起訴猶予された者との受ける制裁に余りに大なる差違があり過ぎるのである、犯則として起訴された場合は、起訴猶予の場合に比し、新法に於いては二倍(両罰規定によつて四倍となり得る)旧法に於いては二十倍(追徴税は二五%であり罰金は五倍だから……両罰規定によつて四十倍になり得る)の財産上の制裁を受ける外、尚前科者として身分上の著しい制限を受けることとなる、若しこれに追徴税(重加算税)を重複して課すれば、新法に於いては財産上の制裁は起訴猶予の場合に比し三倍乃至五倍、旧法に於いては二十一倍乃至四十一倍となるのである。上告人は国民として、斯様な差異を認めることが著しく正義に反し、衡平を失するもめであるとなさざるを得ないのである、だから罰金と重加算税(旧法の追徴税)を重複して課するが如きは、法文に明定されない以上違法なりとせざるを得ないのである、否仮令明文があつても、憲法違反の悪法として、其無効を主張せざるを得ないのである。新法第四八条第三項には、其の免れた法人税を直ちに徴収せよと、明定して、重加算税(追徴税)まで徴収せよとは規定していないのである。こは犯則の場合の制裁は、同法第四八条第一項及第五一条の制裁で充分であるとの法意と解せなければならないのである、そして新法第四八条第三項の法意も、旧法の同条項も、同一法意であることに付いては、当事者間に争がないのであるから、旧法の罰金と追徴税の重課が、違法であることは明々白々であると断ぜざるを得ないのである。

三、凡そ法令は国家意思を一般的に表示したものであるから、法令用語は、国民大衆が其用語から汲み取る最大公約数的意味に解しなくてはならない。若し其以外特殊の意味に使用する場合は必ず法令自体に於いて其用語の意味を解示しなくてはならない(戦後の法令には其の用語の意味を解示されている場合が多い)上告人の解する所によれば、新法第四八条第三項の免れた税金という意味は、叙上上告人の所説の通りであつて、上告人の解釈こそ国民大衆によつて支持される最大公約数的意味であると確信するのである。仮に免れた税金という意味を被上告人又は原審判示の様に解し、左様に解することが国家意思であるならば、第四八条第三項の法文は国家の意思とは一致しない意思を表示したことになるのであろう。然かもこの場合正当に表示されない国家意思は、国民に対して何等の効力をも有するものではない。だから何処までも、被上告人及原審判示の様な国家意思を、第四八条第三項に盛り上げ様とするならば、同条項は其表現を変更しなくてはならないと確信する。だが然し若し左様に変更しても、それは憲法違反によつて無効に帰すべきことは前述の通りである。

第五点 原判決はその判決理由第一の三に於いて

法第四八条第三項の規定の趣旨は、既に前段冒頭に説明した通りであつて右「直ちに」は「税金を徴収する」にかゝるが、「課税標準を更正又は決定し」は其税金徴収を引出す前提として注意的に挿入した文詞に過ぎぬと解すべきであり、と判示している。

然し旧法同条項の「直ちに」は単に其税金徴収を引出す前提として、注意的に挿入した文詞ではなく、本書第二点の四の末段に於いて論した如き意味合を有しているのであつて、右判示は同条項の誤解に基くものである。

其他の本項の判示に対する論駁も亦本書第二点の四に論じた通りであつて、本項の判決理由は何れも原審が法令の解釈を誤つた不当なものである。

第六点 原判決は判決理由第一の四に於いて

控訴人はこの点につき「もし法第四八条第三項の立法趣旨が、単に法第三三条の適用を除外するにあるならば「この場合第三三条の規定を適用せず」と規定するのが法文用例上当然の措置である。然るに「直ちに云々」と規定したのは法第三三条の適用除外の意味でなく、政府は刑事有罪判決あれば改めて独自の調査をせず機械的に判決通りの更正文は決定をする趣旨であることが明かだ」と主張するが、法第四八条第三項はその立法趣旨から見て、必しも控訴人主張の様な用語例に従うことを要するものでなく、同項の文詞によつて控訴人主張の様な法意を窺い得るものと認め難い。と判示している。

然し上告人の主張する所は、単に法文用例上当然の措置であるとのみ主張するのではない、本書第二点の各項に於いて論じた様な、いろいろな看点から、法第四八条第三項の更正又は決定が、法第二九条以下の規定とは、異なる特殊な場合であることを論じ、其の一の論拠として、法文用例論を展開したのであるから、この法文用例論も他の上告人の諸主張とにらみ合せて、評価すべきものである「必しも……用語例に従うことを要するものでない」にしても、この法文用例上従来の慣例が除外されている点は、法文の解釈上重要視せねばならないこと勿論である、従つて「必しも……用語例に従うことを要するものでない」と簡単に論じ去り得るものではない。

第七点 原判決は、判決理由第一の五に於いて

控訴人は「法第四八条第三項が法第三三条中一部適用除外を目的とするものならば本来第三三条は法第二九条乃至第三一条の課税標準の更正又は決定に伴う規定であるから、刑事有罪判決に基く法第四八条第三項による課税標準の更正又は決定については法第三三条の適用なきは当然である、従つて之が適用を除外するため「直に云々」と規定する必要はない」と主張する。

と上告人の原審に於ける主張を摘示しているが、上告人は従来法第三三条は、法第二九条乃至第三一条の課税標準の更正又は決定に伴う規定であること、法第四八条第三項の更正又は決定は、法第二九条乃至三十一条の其れとは其本質を異にすることに付いては、終始最も之を力説しているけれども、右摘示の末段の様な主張をしたことはない、右摘示は、上告人の原審に於ける昭和二十七年十月二十三日附甲第三準備書面の「三、法第四八条第三項の直ちにの意味」といふ項(一九頁以下)の読違いであらう、本項は原審が上告人の主張を誤解してなした無用の判断であるので、敢て上告理由とする程でもないが、念のため原審が上告人の主張を誤解している点のあることを指摘しておきたい。

第八点 原判決理由第一の六は、上告人が昭和二十七年十月二十三日附甲第三準備書面一の(2) (同書八頁以下)に於いて主張した国家意思統一論に対する批判であるから、まづ上告人の国家意思統一論を述べよう。

一、凡そ国家は単一なる人格者たることの必然的結果として、相矛盾する二つの意思を同時に有することを許されない。従つて相矛盾する二つの国家意思(法令又は法条)が存する場合には、其何れかが無効であるか、又は何れかゞ優先的関係にあるものと解さなくてはならない。

右様に解せなければ国家意思の統一は保たれないからである。従つて法令法条の解釈も、国家意思の不統一を来すことがない様に之を解釈しなければならないのである(美濃部博士、憲法撮要三版二五頁、五版二七頁、同博士、日本憲法第一巻二二三頁以下)斯様な見地から法人税法の条項を検討して見ると、結局問題は法第四三条と第四八条三項とが矛盾なく並び適用され得るか何うかと云うことになるのである。若し之を原審の様に解するならば、右両法条は矛盾なくして同時に並び適用されることを得ないことを上告人は主張し、従つてこの矛盾を回避して、国家意思の統一を保つためには、犯則事件として刑事裁判に付せられた事案には、課税標準の更正又は決定に付き法第四八条第三項を優先的に適用して、法第二九条乃至第三一条の適用を排除し、法第四三条の適用をも排斥しなければならないと主張するのである。そして法は現に両法条が国家意思不統一の矛盾を来さない様に立法されていることを主張するものである。即ち文理解釈から云つても、法第四八条第三項に法第四三条を準用せず、法第四三条に法第四八条第三の場合を掲記していないのは、之を準用又は掲記すれば国家意思の統一は期せられないからである、然るに原審の解釈の様に、犯則事件有罪判決確定の場合にも、尚法第二九条乃至第三一条、第三六条、第四三条が適用されるものとすれば、結局課税標準額の確定は民事判決に待たなくてはならなくなるのである。この場合民刑両判決が、課税標準認定に付き、一致するということは、必しも之を期待することが出来ないから、茲に同一事件に付き相異なる課税標準が判決されて、相矛盾する国家意思が並存することになるのである。然しながら斯る事態は国家意思統一の原則、統一的立法の原則から許さるべきではない。

国家が前述の様に、国家意思の不統一を来すことをおそれて慎重に立法していることを看過して漫然「民事判決と刑事判決との間に、納税義務の有無及範囲につき、異なる認定を生じ得ることは、前者が当事者処分権主義に基き、行政処分の適否の判定を目的とし、後者が職権主義に基き、刑罰権の有無範囲の判定を目的とする別個の国家制度である以上、当然の結果であり……云々」と判示しているのは関係法条誤解の上に立てる誤判なること明白である。

第九点 原判決は其判決理由第一の七に於いて

控訴人はこの点に付き、もし法第四八条第三項の課税標準の更正又は決定が、法第二九条乃至第三一条所定のそれとその本質を同一にするものであるとすれば、法第四八条第三項は「第一項の場合に於いては、政府は直ちに第二九条以下の規定により、その課税標準を更正又は決定し云々」との趣旨に規定すべき筈であるのに、同項がかような趣旨を規定しないのは、両者の性質が異なるからであると主張するが、右両者の更正又は決定が基本質を同一にするものである以上、法第四八条第三項に特に法第二九条以下によることを規定する必要はない、従つて右法第四八条第三項に控訴人主張の右字句のないことを以て、右両者の更正又は決定の性質に相違あることを肯定することが出来ない。と判示されている。

然し上告人の主張は普通立法上の用語例として、上告人主張の様に規定されることを主張するのであつて、右の様な規定がなければ、法第四八条第三項の更正又は決定手続は、第二九条以下のものとは異なるものと解するのが法律常識であることを主張するのである。

又仮りに原審の様に、法第四八条第三項の更正又は決定が、法第二九条以下の夫れと同一性質のものであるとすれば、何も特に第四八条に第三項を設ける必要はない、原審は判決理由第一の三に於いて同条項の更生又は決定云々の文詞は「……直ちに……税金を徴収する」前提として注意的に挿入したものに過ぎないと判示しているが、徴税官庁は徴税手続については上司の督励並に注意的規定がなくても、納税者が苦痛を感ずる程、常に精励しているのであるから、何も左様な注意的規定の要はない、上告人は同条項に「直ちに更正又は決定……徴収する」との文詞があること自体が、犯則の場合に於ける徴税手続の特殊性を裏付けるものと解するのである、だから本項に関して原審が上告人の主張を排斥した理由も不当である。

第一〇点 原判決は判決理由第一の九に於いて

旧所得税法第六九条第四項にも「第一項又は第二項の場合においては、政府は直ちに、その免れた税金又は徴収しなかつた税金、若しくは納付しなかつた税金を徴収する」と規定するのみで、追徴税を課し得る旨の規定がないから、追徴税を課し得ない趣旨が明かであり、法第四八条第三項の趣旨も従つて明かだ」と控訴人は主張するが、法第四八条第三項の趣旨に関する、上叙の説明は、之と同様の表現を用いた所論所得税法第六九条第四項についても、亦あてはまるわけであり、従つて右所得税法の規定中、追徴税に関する規定のないことによつても、法第四八条第三項が追徴税の賦課徴収を除外した趣旨を窺うことが出来ない。

と判示している。

然し上告人は精密なる検討によつて、旧所得税第六九条第四項の規定は、免れた税金だけを微収する規定であり、追徴税を徴収し得べき規定ではないと解するものであつて、原審の右旧所得税法の該当法条の解釈は違法であるとするものであるから、所得税法の右条項に対する原審の解釈を以て、本件の法人税法第四八条第三項の立法趣旨を窺うことは、問を以て問に答へるものであつて、上告人の主張を排斥する理由とはならない。

上告人の旧所得税法第六九条第四項に対する解釈は、昭和二十八年七月十三日附甲第五準備書面二項(同書二頁以下)に記述しているが、念のため上告人の右法条に対する解釈を左に記述する。

上告人は旧法第四八条第三項と、旧所得税法第六九条第四項とは、同趣旨であつて、犯則の場合には免れた税金(免れた税金の意味については本書第四点の記述御参照)以外に、追徴税を徴収し得ないものと解する。

旧所得税法第六九条第四項

第一項、又は第二項の場合に於いては政府は直にその免れた税金、又は徴収しなかつた税金、若しくは納付しなかつた税金を徴収する

右条項中「免れた税金」と云うのは、同条第一項の免れた所得税(源泉所得税を含む以下同じ)のことであり、「又は徴収しなかつた税金、若しくは納付しなかつた税金」というのは、同条第二項の源泉所得税の徴収納付義務者が、徴収せず若しくは徴収はしたが、納付しなかつた源泉所得税を指すのである。従つて「又は徴収しなかつた税金、若しくは納付しなかつた税金」というも、徴収しなかつた追徴税、若しくは納付しなかつた追徴税という意味ではない、即ち何れも免れた普通税金の意味である、だから旧所得税法第六九条第四項の場合に於いても、犯則の場合追徴税を徴収することは出来ないと解せねばならないのである。

尚上告人が原審に於いて旧所得税法を援用したのは、犯則の場合には、免れた税金しか徴収出来ない法意であることを主張せんがためであつたのである。

第一一点 原審に於いて、上告人が、法第四八条第三項の更正又は決定に対しては、法第四三条に、追徴税を課すべきことを明定していないから、同条項の場合に第四三条の追徴税を課することは、追徴税と称する財産上の制裁規定を類推適用する違法を冒すものであり、疑わしきは、国民の利益に解すべきである、と主張したのに対して

原判決は判決理由第二の(二)に於いて、

法第四三条の追徴税は、刑罰ではないが、なお行政上の秩序罰たる過料的制裁の性質あることは、前説明の通りであるが、法第四八条第三項の場合の課税標準の更正又は決定は、法第二九条乃至第三一条のそれと同一のものであつて、追徴税に関する法第四三条は、この法第二九条乃至第三一条所定の課税標準の更正又は決定に基づき徴収すべき法第三三条の不足法人税額を基準として適用するため、規定されていること、前説明のとおりであるから、法第四三条は法第四八条第一項の場合即ち詐欺その他不正の行為により法人税を免れた場合に、追徴税を課すべき制裁規定として厳存するものに外ならない。

と判示されている。

然し原審が、法第四八条第三項の更正又は決定を以て、法第二九条乃至第三一条の更正又は決定と同一のものであるとすること自体が、既に類推なのであるから、この類推に基いて展開された結論も亦類推による結論とならざるを得ない、従つて右原審の判示は制裁規定類推適用禁止の違法あるものである。

第一二点 以上一一点に付いて、原判決が憲法に違反し、法人税法の解釈適用を誤つている点を指摘したが、更に裁判制度に対する見解を陳述して、原審判決の理由なき事を指摘したい。

原審並に被上告人等の主張は、行政事件の最終判決は、必ず民事裁判所の判決に待つべきものであつて、絶体他の裁判所の干与を許さないとの独断的鉄則に禍されたものである、素より原則として、民刑事裁判所は各々事物の管轄を異にしているけれども、個々の場合に於いて、何れの裁判所に裁判権を有せしめるかは、便宜の問題である、例へば旧法時代には、刑事裁判所も亦附帯私訴によつて、民事々件の管轄権を有していた、又現在に於いても、国税犯則取締法は通告処分によつて、実質的刑事裁判を行政庁たる徴税庁をして行はしめている、だから脱税犯の場合課税標準最終確定を刑事裁判所の判決に待つことは、それが法律に於いて規定されている以上、何等差支えない所である、加之脱税犯の場合には、必ず課税標準を確定して、其の確定額に応じて、罰金を定めねばならないのであるから、右刑事裁判によつて確定した課税標準を、其侭徴税の基準である課税標準とすることは、国家行政並に裁判事務の経済並に簡素化という点からも望ましいことであり、又国意意思統一と云う点から見ても歓迎すべきことである、だから法人税法第四八条第三項により刑事裁判の判決によつて確定された課税標準が、自ら行政処分的に確定されても、亳も異とするに足らないのである。

以上の論述の通り、原判決は憲法並に法令の解釈につき、重大なる誤謬を冒しているので、原判決を破棄して、上告趣旨の通り判決されんことを求める次第であります。

以上

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